相続発生後にできることは限られている

 相続が発生した場合、相続が発生した日時点にて相続財産や相続人などが確定します。

 相続は突然のことでもあるため、発生してしまえば確定した事項を元に手続きを進めるほかありません。

 相続発生後にできることとしては、相続税の申告内容や遺産分割方法、その他必要な手続きの効率化・簡略化などがありますが、これらは依頼する専門家によって大きく異なるでしょう。

 しかし、どれだけ知識のある専門家でも被相続人が亡くなった時点で確定した事項を変えることはできないので、相続においては相続発生後の手続きだけでなく生前の相続対策が非常に重要です。

 

遺言は被相続人の意思

 【遺言書の作成】による「意思決定」と「効率化」

 まず、生前に信用性の高い遺言書を作成することで相続発生時に有効な遺言を残すことができます。

 遺言書は自分で作成することもできますが、無効になるリスク等を考えて公正証書遺言を作成することをお勧めします。

 

 遺言書を作成することで、予定相続財産について誰にどの程度相続させるかを決めることができ、その意思決定が妨げられません。

 また有効な遺言書は、遺産分割協議書と同じ効果を持つため、遺産分割協議の省略ができます。

 遺言書一つで預金の解約や不動産の名義変更まで全てできますので、相続発生による必要な手続きがスムーズになります。

 近年は相続人同士の仲が悪いケースだけでなく、相続人が代襲相続などで大人数になり疎遠になっているケースや法定相続人となる家族がいないためにお世話になった親戚等に相続をさせたいケースなど、遺産分割協議書が作成できずトラブルになることも多くあります。

 そのようなケースに対しても有効な遺言を作成することで、相続手続きを円滑に進めることができるでしょう。

 

 【遺言書の内容】による「円満な相続」と「節税」

 被相続人が残す遺言書は、予定相続財産について誰にどの程度相続させるかを決めることができる強制力があるものであるため、その遺言書の内容が非常に重要です。

 その遺言が財産を譲り渡す人の意思だとしても、実際に譲り受ける人たちの意思や持つべき権利とのズレがあったら、その遺産分割をはじめとする相続手続きが円満かつ円滑に進むとは言えないでしょう。

 

 円満な相続を達成するための遺言書を作成するためには、「相続人の意思」と「相続人の権利」を反映させることが大切だと考えます。

 相続人の意思とは、「この財産を譲り受けたい」や「この財産は他の相続人に譲りたい」という相続人自身の主張・考えになります。

 財産を譲り渡す人と譲り受ける人たちの意思が合致してこそ、納得のいく遺産分割を達成できるでしょう。

 また相続人の権利とは、相続人が相続財産を受け取ることの権利で、法定相続分や遺留分と呼ばれるものです。

 相続人は被相続人の財産を相続のルールに則って公平又は公正に譲り受ける権利がありますので、これらの権利を大きく侵害することは、いくら被相続人の意思決定である遺言であっても望ましいものではなく、トラブルの原因にもなります。

 財産を譲り渡す本人の意思は最大限尊重されるものであるべきですが、相続人全員の立場になって納得のいく遺言を残すということも重要でしょう。

 

 遺言書では遺産分割の指示をすることができるというメリットから、遺産分割による節税を行うことができます。

 遺言による節税とは、厳密にいうと節税効果のある遺産分割を促すことができるということです。

 相続では、財産の取得者や取得割合に応じて相続税総額が大きく変わります。

 二次相続を考慮した孫へ遺贈するケースなど遺言でのみすることができる相続対策もあります。

 相続税総額が下がる遺産分割をすることができれば節税になった分多くの財産を残すことができるということですので、財産シミュレーションを通じて遺言書を作成することが望ましいです。

 

 専門家に遺言書の内容を相談して作成する

 円満で節税となる遺言を考えることはとても知識と経験の要ることであるため、専門家に依頼することが望ましいです。

 そして依頼するとき、必ず内容についても相談することをお勧めします。 

 相続税の申告や相談などの事案に携わる際に、依頼者の意思を尊重するあまり予定相続人の遺留分などの権利を侵害していたり、節税となる遺産分割を考慮するあまり予定被相続人や予定相続人の意思と乖離している内容の遺言書を見かけることが多くあります。

 遺言書は有効性がであることも当然大事ではありますが、その内容が本当に被相続人・相続人 双方の求めているものなのか、権利や節税の面でも有用なのか、を考慮して遺言書の内容を検討できる相続に強い専門家に依頼してください。

  

円満で節税となる相続は生前の相続対策

 最大の相続対策は、生前に話し合うこと

 財産を譲り渡す被相続人・財産を譲り受ける相続人・いつか財産を譲り受ける次世代の人たち皆が納得のいく遺産分割で、かつ税金面でも不安のない相続を達成することが最高の相続であると考えます。

 そのような素晴らしい相続を達成するために最も必要なことは、相続に関わる全ての人が生前に話し合いすることでしょう。

 相続がうまくいかない理由は、主に以下の4つあります。
 ① 被相続人の意思が分からない
 ② 突然のことで準備ができていない
 ③ 相続人の遺産分割内容がまとまらない
 ④ 相続税などが高額すぎる、払えない

 これらの理由を元に起こりうるトラブルは、いずれも生前に話し合うことで解決できる可能性が高いです。

 ① 被相続人の意思が分からない → 家族全員の話し合いで直接意思が分かる・伝えられる
 ② 突然のことで準備ができていない → 時間の猶予、相続財産の把握で節税や申告などの相続手続きも効率化、孫や世話になった人への相続もできる
 ③ 相続人の遺産分割内容がまとまらない → 予定被相続人の希望する遺産分割内容が分かる、揉める場合は生前贈与・遺言書を作成することができる
 ④ 相続税などが高額すぎる、払えない → 家族の協力を元に相続税対策など節税ができる、相続財産が多く残る

 

 生前に相続の話し合いをするということは、予定被相続人からすると自分の財産を公開することになるでしょうし、予定相続人からするとまだ生きている親族が亡くなった場合の話をすることになるため、話し合いの場を設けづらいということも重々承知しています。

 しかしそれらの準備をしてこなかったことで親族に不安な気持ちを与え、手間や迷惑をかけてしまう可能性もあります。

 何より親族皆で交流する場があることは全てにおいてプラスに働くに働くと考えますので、予定被相続人・予定相続人がお互いに話し合うことを提案して、その話し合いを通じて相続に対する準備をして理解を深めてみてはいかがでしょうか。

 

 揉めない遺産分割なら遺言書は不要

 遺産分割協議は、遺産を相続する権利を持つ全ての人が同意する内容であれば、希望するとおりに遺産分割ができます。

 そのため親族の仲が良く遺産分割で揉める心配がない相続や、法定相続人が1人しかいないような相続では遺言書を作る必要は基本的にないでしょう。

 故人の残した遺言書の内容に納得がいかないケースでも、全ての相続人が同意があれば遺言書の内容以外での遺産分割も可能です。

 しかし財産を目の前にして気が変わらないとも言えませんし、生前の口約束では法的効力が認められない場合もありますので、相続人全員の現況を考えて遺言書という書面を残すか検討して下さい。

 

 相続知識のある専門家を交えて

 生前の相続対策や遺産分割内容を決めて遺言書を作成する際には、相続に強い専門家の意見を仰ぐことをお勧めします。

 相続対策の中には早期にしかできないこともありますし、間違えてしまうと取り返しのつかないことも多くあります。

 専門家を交えて家族全員で話し合いをしてもいいですし、あらかじめ遺産分割や遺言書の内容を決めてから問題がないか相談に行かれるのもいいかと思います。

 

 特に相続税に関する相談や申告業務は、税理士しか行うことができませんので注意してください。

 税理士業務の中でも専門性が非常に高く経験や知識が必要になりますので、相続に強い専門家をお選びください。